有機溶媒分散PEDOT
ICP(Intrinsically Conducting Polymers)は、分子の主鎖に沿った拡張p共役を持つポリマーで、ドーピングによってその導電性を半導体状態から金属状態まで大きく変化させることができます。p型ドーピングは、化学的酸化剤や電気化学的方法によりポリマーを部分酸化して実現できますが、「正孔」が形成されて結合性p軌道(HOMO)の電子不足が生じます1。ICPは1970年代に発見されて以来精力的に研究されてきましたが、性能や溶解性に問題があるものが多く、商用化に成功した製品は比較的わずかしかありません。
PEDOT/PSS
PEDOTは、導電性が良好なこと、ドーピングされた(導体)形態での環境安定性が優れていること、および薄膜として使用した場合の光透過性が妥当であることから、もっとも一般的に使用されているICPのひとつです2。PEDOTコーティングの一般的な方法は、PEDOTとポリアニオンポリ(スチレンスルホン酸塩)すなわちPEDOT-PSSの混合物からなる水分散液を使用します。
弊社では、導電性PEDOT-PSS水溶液のいくつかのグレードを販売しております(Aldrich製品番号: 655201、483095、560596)。低導電性グレードはOLEDおよびOPVの正孔注入層としての使用に適しており、また高導電性グレードは仕事関数が約5.1eVの透明導体として評価されています3,4。
このようにPEDOT/PSSは商用ベースで成功していますが、ドーパントであるPSS が吸湿性で強酸性であるために、デバイスの寿命と性能を損う可能性があることが問題となっています。5-7。
PEDOT/PSSの問題点
- 溶解性に乏しい: プロセス処理・加工しにくい
- 水が溶媒である: 多くの電子工業用途・コーティングには適していない溶媒
- PSSがドーパントである: PEDOTは短いセグメントに分かれるため共役距離に制限
- 高分子量のPSSを過剰に使う: 導電性に制限
- バインダー無しでガラスやプラスチックに塗布できない
- 高い酸性度・腐食性・吸水性をもつ: デバイスに悪影響

近年のフレキシブルな印刷電子デバイスの進歩に伴い、非吸湿性溶媒から処理でき、疎水性プラスチック基板を湿潤させる光透過性導電性ポリマー材料に対する関心が高まっています。
有機溶媒分散PEDOT
TDAリサーチ社では、有機溶媒に分散したPEDOTを開発し、Aedotron™ ポリマーという商標名で製造しています。シグマ アルドリッチは、これらの材料のいくつかのグレードを販売しています。TDAリサーチ社では、ドープされたPEDOTのブロック共重合体とポリ(エチレングリコール)(PEG)などのフレキシブルな可溶性ポリマーを合成するというアプローチを取りました8。そして、いくつかのパターンのブロック共重合体(図1)を作成し、それらを精製・処理して有機溶媒中で安定なコロイド分散を形成する方法を開発しました。

図1 新規ブロック共重合体の模式図
(a) リニアマルチブロック、(b) リニアトリブロック、(c) ハイパーブランチ。濃い青色の長方形はドープされたPEDOTのブロックを表し、曲線はPEGのブロックを表します。
図2に、マルチブロック共重合体「Aedotron™ P-NM」およびトリブロック共重合体「Aedotron™ C3-NM」の化学構造を示します。また、2種類の代表的な材料の特性を表1にまとめました。ブロックの組成、分子量、ブロック比、およびドーパントの種類を注意深く制御して、共重合体のバルク導電性を10-4 S/cmから60 S/cmまで変化させることができます。Aedotron™ 材料は酸性でも腐食性でもないため、さまざまな無機および有機基板上にこの共重合体の非吸湿性薄膜をスピンキャスト法またはその他の方法で塗布することが可能です。これらのコロイド分散は、PEDOTブロックの凝集を分子中の原子の立体配列によって制限する、高度に溶媒和されたPEG鎖によって安定化されています。この共重合体は、極性非プロトン溶媒中で容易に分散します。そして、高沸点溶媒を必要とする用途には炭酸プロピレンを、揮発性溶媒を必要とする用途にはニトロメタンを選択しました。他の溶媒を、特に低導電性材料に対して探索中です。

図2 PEDOT-PEGブロック共重合体の構造式
| 製品名 (製品番号) |
分散液中の粒径 (nm) |
バルク導電性 (S/cm) |
シート抵抗* (Ω/□) |
平均透過率 (%T) |
スピンキャスト薄膜の RMS粗さ**(nm) |
|---|---|---|---|---|---|
| Aedotron™ C-NM (649805) |
600-1,000 | 0.1-2 | 104-105 | 70-85 | 40 |
| Aedotron™ C3-NM (687316) |
200-600 | 10-60 | 600-3,000 | 70-85 | 10 |
*一般に、1〜3層を1000rpm以上でスピンコーティング
**% T は400〜800 nmの平均値。(バックグラウンド:コーニングガラス)
この新しいPEDOTのコロイド安定化メカニズムはポリマーのドーピングに依存しないため、ドーパントを制御しながら共重合体のバルク導電性と仕事関数を調整することが可能です。一般に、p -トルエンスルホン酸(PTS)をドープした共重合体(Aedotron™ P-NM 649791)は導電性が低いため、帯電防止/電荷散逸用途やOLEDの電極界面層として使用できます。通常、Aedotron™ P-NMポリマーは懸濁液中の粒径が大きいため、極性が弱い溶媒中ではいくぶん分散されやすくなります。
一般に、過塩素酸塩をドープした共重合体(Aedotron™ C 649805、649783)は、透明度がさらに高く、薄膜での導電性が向上します。今回新たに開発したトリブロック共重合体(Aedotron™ C3-NM 687316、図2b)を使用すると、透過率が80%(400〜800 nmでの平均値)でシート抵抗が1000Ω/□の、ポリカーボネートやその他のプラスチックフィルム上で良好なぬれ性を持つ薄膜をスピンキャストできます。図3に、ガラス上に1000 RPMでスピンコートした1層、2層、および3層膜の紫外・可視透過率スペクトルを示します。

図3 Aedotron™ C3-NM薄膜の紫外・可視スペクトル。(上から順に1層、2層、および3層の膜のスペクトル。それぞれの抵抗値も併記しています。)
このスペクトル特性から、タッチセンサー式ディスプレイやELランプおよびELディスプレイに使用できる透明導電体の要件を満たしていることがわかります。トリブロック共重合体は、マルチブロック共重合体より懸濁液中での粒径が小さいため(290 nm)、接触モード原子間力顕微鏡で測定した表面粗さが少ない(<10 nm)薄膜を作成することができます。
多層デバイスの設計では、さまざまな層の中での材料の相対的なエネルギーバンド構造を考慮することが重要です。XPS(X線光電子分光法)を用いて測定したマルチブロック共重合体の仕事関数は、PEDOT-PSS混合物の仕事関数よりも低いことが明らかになっています(Aedotron™ Pポリマーでは約4.2eV、Aedotron™ Cポリマーでは4.3 eV)9。薄膜電子デバイスを作製する際に、エネルギーバンドの位置合わせや重なりが非常に重要な場合、この低い仕事関数を考慮する必要があります。
| 製品名 (製品番号) |
共重合パターン | 含有量 (wt.%) |
溶媒 | ドーパント | 導電性 (bulk, S/cm) |
備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Aedotron™ P-NM(649791) |
PEDOT-block-PEG | 1 | ニトロメタン | p -トルエンスルホン酸 | 10-3〜10-4 | 正孔注入層材料として。帯電防止層など低導電性用途に。 |
| Aedotron™ C-NM(649805) |
ニトロメタン | 過塩素酸塩 | 0.1〜2 | TFTやキャパシタ、バッテリなど、一般的な用途に。 | ||
| Aedotron™ C-PC(649783) |
炭酸プロピレン | |||||
| Aedotron™ C3-NM(687316) |
C12-PEG-b-PEDOT-b-PEG-C12 | 0.7 | ニトロメタン | 過塩素酸塩 | 10〜60 | ELランプおよびELディスプレイなど高い透過率と導電性の必要な用途に。 |
| Oligotron™ PC(649813) |
PEDOT, tetramethacrylate end-capped (オリゴマー) |
0.5 | 炭酸プロピレン | p -トルエンスルホン酸 | 0.1〜0.5 | 反応性の高いPEDOTオリゴマー。メタクリル酸やアクリル酸化合物と反応させてポリマーブレンドの作成が可能です。 |
| Oligotron™ NM(649821) |
ニトロメタン |
*PEDOT-PSS水溶液製品は、high-conductivity grade(655201)、conductive grade(483095)、low-conductivity grade(560596)を取り揃えております。

