2光子吸収色素(Two-Photon Absorbing Chromophores)6
Seth R. Marder and Joseph W. Perry
Department of Chemistry and BioChemistry
Georgia Institute of Technology, Atlanta, Georgia and Focal Point Microsystems, Atlanta, Georgia
通常、1つの色素分子が1光子吸収する確率は、入射光強度に直線的に比例します。しかし、レーザー光のように充分に強い光を用いた場合、1つの色素分子が2光子を同時に吸収することで、1光子によって励起状態に達するのに通常必要なエネルギー(= 入射光のエネルギー)の2倍のエネルギーを吸収することが可能です。この「2光子吸収(TPA: Two-Photon Absorption)」と呼ばれる現象は、通常の入射光強度では1光子励起に比べると起こりにくいものです。1つの色素分子が同時に2つの光子を吸収する確率は、入射光強度の2乗に比例します。
2光子吸収により、精密に特定の三次元(3D)空間だけで分子の励起を起こさせることができます。集光レーザー光線の強度が焦点面からの距離の2乗に比例して減少するためにこの特殊な励起状態が生じます。2光子吸収の起こる確率は強度の2 乗に比例するので、2光子吸収は焦点からの距離の4乗に比例して減少します。よって2光子吸収は、焦点面の上下ではほとんど無視できるほどになります。このように目的の分子を媒体の1光子吸収エネルギー以下の光子エネルギーで選択的に励起することができるために、2光子吸収により、通常の媒体に埋め込んだ色素分子を励起できます。
2光子吸収を様々な用途に利用する試みは今まで限定的にしか行われてきませんでしたが、これは、使用される発色団が1光子励起のために開発されたもので、TPA断面(δ)と呼ばれる2光子を吸収する効率が低かったためです。δの大きい分子が開発されれば1、非常に高出力のレーザーの必要性も低くなり、2光子吸収のアプリケーションがより信頼性のある、経済的に実現可能なものになるでしょう。δが大きい色素には現在、2光子励起蛍光顕微鏡2、三次元微細加工3-5など、さまざまな用途での需要があります。TPA感度が高い分子を設計するために重要となるのは、δがいかに分子構造と関係しているかを理解することです。私たちは1998 年に、π共役した分子の中で励起によって四重極モーメントが大きく変化するものが、しばしば大きなδを示すことを報告しました1。ドナー‐π‐ドナー(図1)、ドナー‐アクセプタ‐ドナー(D-A-D)、およびアクセプタ‐ドナー‐アクセプタ(A-D-A) 構造を持つ色素分子は、特に大きな値を示します5。

図1 断面が大きいドナー‐π‐ドナー2光子吸収発色団の例
Two-Photon Initiated Chemistry
TPAは三次元の高い空間分解能を持つ化学的・物理的なプロセスを活性化する手段であり、3D光データストレージの開発を可能にしました。さらにTPAにより、ネガ型とポジ型の両方のレジストを使う3Dリソグラフィック微細加工が可能になります。焦点がよく合った状態では、焦点での吸収は次数λに制限されます3。ここで、λはレーザーの波長です。その結果、体積要素は通常1µm3以下になることができます。適切な条件下では、光重合のような化学反応はこの小さな体積要素内にとどめることができます。高いδを持つ分子を重合開始剤として組み込んだ2光子励起可能な樹脂は、市販の樹脂に比べて感光性が非常に高いTwo photon induced polymerization(TPIP)を実証するために使われています。
高感度TPIP樹脂は、3Dリソグラフィック微細加工(3DLM: 3D lithographic microfabrication)に用いることができます5。ネガ型3DLMの場合、光励起により感光性ポリマー樹脂が架橋反応を起こし、露光された材料の溶解性を低下させます。この過程で材料内に強いレーザー光の焦点を走査することで、任意の3Dパターンを感光性ポリマーに作製します。1つの露光・現像サイクルの中で露光されなかった材料を溶解させることで、露光された3Dパターンは独立した3D微細構造が得られるように現像されます。3DLMアプローチは、集積光学素子やマイクロメカニカル構造など、さまざまな3D微細構造を作成するのに使用することができます。”stack of log”構造(図2)のような三次元周期構造は、フォトニックバンドギャップ材料として興味深いものです。

図2 2光子微細加工技術で作成されたフォトニック結晶格子

