新規n型半導体ポリマー
現在、有機薄膜トランジスタ(TFT)や有機EL(OLED)、プリンタブル回路、有機キャパシタ、有機太陽電池などの全てのプラスチック電子デバイスが注目を集めており、すでに市場への製品の投入が始まっています。無機材料を用いた製品と同様に、有機エレクトロニクスデバイスでもp型とn型の導電性・半導体化合物が必要です。これらのデバイスで使用されている材料の多くは、荷電キャリア(ホールやエレクトロン)が移動可能な高度に共役した化合物です。これまでに見つかった有機エレクトロニクス材料の大部分がp型の材料ですが、一方のn型材料は非常に限られた種類しか見つかっていません。その理由として、分子設計の観点から挙げられるのは、電子不足状態(n型)よりも電子過剰な共役ポリマー(p型)のほうがデザインしやすいという点です。さらに、現在見つかっているn型材料は、低い溶解性、合成の難しさ、空気中での不安定性という致命的な欠点を持ちます。
ICP(Intrinsically conducting polymers)は分子骨格に沿ってパイ共役結合が連続しているポリマーで、ドープの度合いによって導電性を変更することができます。無機半導体と同様に、ICPはp型とn型のどちらにもなります。しかし、有機材料のドープの方法は無機材料とは異なります。例えば、ポリマーのp型ドーピングは酸化剤や電極による部分酸化により行います。ホールの注入によりp軌道(HOMO)の結合が減少します。ポリマーのn型ドーピングは還元剤や電極による部分還元によって、反結合性p軌道(LUMO)に電子を注入します1。これら共役ポリマーの非ドープ状態では通常半導体性で、ドーピングによって荷電キャリア(電子/ホール)が注入されることで(かつ、安定であれば)、そのドープ量に見合った電気的導電性を持つようになります。
p型のICPとして、ポリアニリンやポリピロール、ポリチオフェン誘導体などがすでに広く使用されていますが、一方のn型材料は電子不足状態化合物のデザインの難しさから、太陽電池やTFTでは、シアノ基やニトロ基などの電子求引性置換基をもつ炭化水素ベースのポリマーやBBL(Aldrich製品番号:667846)のようなはしご型ポリマーが使用されています。また、フラーレン誘導体もn型材料として有機電子デバイスで広く使われています。しかしこれらn型材料は還元したりn型ドーピングが難しく、空気中で不安定になります。さらに、取り扱いが難しく、合成が難しいものもあります。よってこれまではアカデミックな研究対象の枠をできることはありませんでしたが、n型ポリマー材料は有機ELやTFT、太陽電池の作製において非常に重要な材料です。n型ドーピング導電性材料は有機ELのカソードとして(Ca, Al, Mgなどの低い仕事関数の材料の代替材料)、n型半導体は有機ELの電子注入層(ETL)や発光層(EL)として、またはnチャネル電界効果トランジスタ、太陽電池セルの活性層としての用途が挙げられます。
Boramer™ −新しいn型半導体ポリマー−
シグマアルドリッチでは、TDA Research社で開発された新しいn型半導体パイ共役ポリマーを販売しています。電子リッチなp型ドープの導電性ポリマーの製造法に似た、ポリマー全体の電子密度を変えることのできるヘテロ原子をパイ共役主鎖に導入することで作製されます。導入するヘテロ原子はホウ素で、その空のp軌道はポリマーの不飽和繰り返し単位であるパイ電子系と共役しています。ホウ素のp軌道には電子が存在しないため、ポリマーのパイ電子系全体が本質的に電子不足になり、ポリマーはn型の電子特性を持ちます。
空気中で安定なパイ共役有機ホウ素ポリマーを調製するには、さまざまな合成方法があります2-7。図1に、TDA Research社にて研究されてきたポリマーの代表的な化学構造を示します。過去数年にわたってそれらの合成法や精製法を改善したり、有機半導体としての特性や薄膜デバイス中での性能の評価を行ってきました。パイ共役有機ホウ素ポリマーおよびオリゴマーをBoramer™という商標名で製造を開始しています。その他のp共役有機ホウ素化合物も現在開発中です。

図1ホウ素含有n型ポリマー「Boramer™ 」の構造式
Boramer™ T01(Aldrich製品番号:688010)、Boramer™ TC03(Aldrich製品番号:688002)
これらの材料を十分精製することで、ポリマーの溶解性を保持することが可能になります。クロロホルムとクロロベンゼンは、これらのポリマーに適した溶媒です。調製したどの有機ホウ素ポリマーにも色が付いており、大部分は可視スペクトルの青から緑までの範囲で強い発光特性を示します(図2)。空気中での安定性についてまだ完全には評価が終わっていませんが、予備実験の結果ではポリマーの構造によって変化することが分かっており、Boramer™ T01ポリマー(Aldrich製品番号:688010)はBoramer™ TC03ポリマー(Aldrich製品番号:688002)より空気に敏感に反応します。どちらの材料も不活性雰囲気中で取り扱うことを推奨しています。

図2Boramer™ のクロロホルム溶液のa)自然光、b)紫外線照射での様子
Boramer™ 材料のエネルギーバンド構造特性を、コロラド州立大学(コロラド州フォートコリンズ)にて紫外光電子分光法(UPS)を用いて明らかにしました。UPSは、スペクトルの低結合エネルギー端で、HOMO準位からフェルミ準位のギャップの電子エネルギーを直接測定します。UPSの測定結果から、本化合物が実際にn型半導体であること、さらにその価電子帯(VB)はメタノフラーレン(PCBM)やシアノPPVなどの一般的なn型有機半導体のVBに近いエネルギー位置に存在することが明らかになりました。紫外・可視スペクトルからポリマーのバンドギャップを推定し、2.6〜2.9eVの範囲にあることも判明しています。図3に、ホウ素を含有する2種類のパイ共役ポリマー(オレンジ色)のHOMO-LUMO準位を、よく知られたp型(青色)およびその他のn型有機材料(緑色)とともに示します。エネルギー準位のデータは、Boramer™ T01の基底仕事関数とHOMO-LUMO準位がもっとも低いという、n型の特性を明確に示しています。

図3Boramer™ と既存のp型およびn型半導体材料のエネルギー準位図
国立再生可能エネルギー研究所(NREL、コロラド州ゴールデン)と協力して、Boramer™ 化合物を有機太陽電池に使用する場合の特性を評価しました。NRELにてフォトルミネセンスクエンチング(PLQ)実験を行い、最大83 %の効率で代表的なp型半導体(MDMO-PPV)の励起状態を失活させることが観測されました。これは、このp型半導体からBoramer™ 化合物に効率的な電子移動が実際に生じていることを示しています。有機ELの電子移動層および発光層として使用した場合、約6Vのターンオン電圧で、明るい緑色の発光(Boramer™ 化合物の固体ルミネセンスと似た色)が観察されました。
BBL −はしご型ポリマー−
シグマアルドリッチでは、nチャネル挙動を示す数少ない共役ポリマーの1つである、はしご型ポリマーのポリ(ベンゾビスイミダゾベンゾフェナントロリン)(BBL)をご用意しました。メタンスルホン酸溶液から調製したこの物質は、高分子FET中で高い電子移動性を示します8。性能が有望視される有機太陽電池は、BBLをMEH-PPV9とポリ(3-アルキルチオフェン) 10のp型高分子と組み合わせて製作されました。また、溶液プロセスで調整したBBLナノベルトを用いて空気中で安定なFETが作製されています11。
ポリ(ベンゾビスイミダゾベンゾフェナントロリン) (Poly(benzimidazobenzophenanthroline), BBL)

- HOMO9: -5.9 eV
- LUMO9: -4.0 eV
- 電荷移動度7: μe = 0.1 cm2/(V s)
- Aldrich製品番号:667846 製品サイズ:250mg, 1g
弊社では「n型低分子有機半導体(ペリレン誘導体やPCBM関連製品)」も取り扱っております。
また、上述したn型有機半導体である「シアノPPV」のほかに、「P3HT,P3OT,P3DDT,F8T2等のp型半導体ポリマー」も数多く取り揃えております。(名称をクリックすると各化合物の製品情報、もしくはUSサイトの製品リストをご覧いただけます。)

