固相メタセシス合成(Solid-State Metathesis Materials Synthesis)32
Dr. Richard G. Blair
Materials and Device Technologies Division, Jet Propulsion Laboratory Pasadena, CA
Prof. Richard B. Kaner
Department of Chemistry & Biochemistry and California NanoSystems Institute,
University of California, Los Angeles, CA
従来の方法ではしばしば製造が困難であった化合物を合成するために、過去20年間、固相メタセシス(SSM: Solid-state metathesis)と呼ばれる新手法が開発されてきました。アルカリ金属またはアルカリ土類金属を主体とする化合物と、金属ハロゲン化物を用いて、酸化物1-7、硫化物3,8、セレン化物3,8、テルル化物3、窒化物9-15、リン化物16-18、ヒ化物17、アンチモナイド17、炭化物19,20、ケイ化物21、ホウ化物15,22,23、アルミナイド24を合成することができます。また、ナノチューブ25、ナノ結晶26,27、高表面積材料28などのナノ構造材料を作ることもできます。これらの反応は、合成が難しかった材料のための新たな手法です。前駆体物質は通常ハロゲン化物ですが、酸化物も同じように使うことができます。たとえば、MgSiN2は、SiO2とMg3N2を反応させて合成できることを我々は発表しています13。酸化物は、ハイドロキシアパタイト29やケイ化物21の前駆体物質としても使用することに成功しています。
固相メタセシス反応では、安定した副生成物の生成が原動力となっています。たとえば、反応式1のように、GaI3とLi3Nを反応させてGaNを作ると、ΔHrxn は-515kJとなります。

反応式1 窒化ガリウムの固相メタセシス反応
これは、Ga+0.5N2→GaN(ΔH = -110kJ)という反応に比べ、4倍以上のエンタルピーです。
固相メタセシス反応は、フレーム、炉、加熱フィラメント、ボールミル、またはマイクロ波で開始させることができます。反応速度によって生成する相が決定されることがあります24。同様に反応速度を調整することで、形成される生成物の結晶子の大きさを制御することができます9。希釈剤を用いたり反応時間を短くすることで、ナノスケールの粉末や高表面積材料を作ることができます。
典型的な固相メタセシス反応では、目的とする陰イオンを持つアルカリ金属またはアルカリ土類金属化合物を、金属ハロゲン化物または金属酸化物と反応させます。反応温度は、ハロゲン化物、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の選択方法30、希釈剤、容器の形状により変わります。重要なのは、この反応の原動力は、アルカリ金属やアルカリ土類ハロゲン化物の生成により放出される反応熱であるということです。
アルカリ金属ハロゲン化物は普通、アルカリ土類ハロゲン化物に比べ反応熱が低いので、アルカリ土類金属を用いた方が、一般に反応温度は高くなります。反応温度の上限は通常、生成される塩の沸点によって決まります。アルカリ土類塩の融点と沸点はより高いため、反応温度の上限も高くなります。
使用するハロゲンの原子量が重くなればなるほど、一般的に反応温度は低くなります。この性質を高温で不安定な化合物の合成に役立てることができます。たとえば、GaNを得るには、LiI(ΔH = -270.4kJ/mol)対LiCl(ΔH = -408.5)という反応熱の違いにより、GaCl3よりもGaI3をLi3Nと反応させる方が簡単なのです10。逆に、いくつかの材料の合成には高温の方が有利です。Ca3N2との反応でAlNを作るには、AlI3よりもAlCl3の方が好ましい選択肢となります9。
反応温度を下げるのに効果的なもう一つの方法は、希釈剤を使うことです31。副生成物の塩そのものなど、不活性塩を反応混合物に添加すればよいのです。窒化物の場合は、低融点または低沸点の窒素を含む化合物(NH4ClまたはLiNH2など)を加えることで、効果が一層高まります10。これらの化合物は熱吸収剤の役割を果たすだけでなく、反応に窒素を供給することもできます。反応温度を下げる最後の手段は、熱損失を制御することです。この方法を用いれば、莫大な量の熱を放出することなく、この反応を効果的にスケールアップすることができます。実現するためには、反応容器を特別に用意する10、あるいは、前駆体物質をゆっくりと反応容器に添加して、生成される熱量を制御すればよいのです。より高温の反応が望まれる場合は、出発材料を慎重に選ぶか、これらの反応を高温で開始します。
最後に、固相メタセシス反応は、従来の手法では生成が難しかった材料を合成するための有効な手法として、過去20年の間に発展してきたのです31。

